暗い夜空を見上げて、ただ静かに一人願う。
何をか、なんてわからないけれど。もしかしたら、貴方の幸せを。
星に願いを。
今日は一年に一度の哀しい日。
引き裂かれた恋人達が再び出会い、そして、また引き裂かれる日。
どうせなら、もう二度と逢えなくしてあげればよかったのに。そうしたら諦めて新しい恋を始めるかもしれないのに。
一年に一度。
その約束がある限り、この恋人達は先にも進めず哀しみに彩られた愛を引き摺り続けるのだろう。ずるずると重たそうに。
曇り、星も見えない夜空を見上げ、そっと溜息をつく。
生ぬるい風が通り抜け不快な感触が何故か心地いい。
目を閉じればいつだって思い浮かぶのは彼のことだけ。
私と彼は一年に一度だけなんかじゃなくて、逢おうと思えば毎日だって逢える。
そんな距離にいる。
けれど夜空の恋人達とは違って、他人として。ただの先輩後輩として。
想いを伝えてみれば、なんて考えなかったわけじゃない。
彼に、それほど嫌われていないのかもしれない。そう思った時に、伝えてみようかとも考えた。
けれど、あと一歩が踏み出せなくて。後輩として笑いかけてもらえる、そんな幸せに浸りすぎていてこの関係を壊すのがどうしようもなく怖かった。
だから私はこうやって、夜が来るたび、一人になるたび、ただ貴方を想い涙するしかない。
ねえ、もしも、もしも本当に願いを叶えてくれるというのなら。恋人同士になりたいだなんて願わないから。
どうか、今宵だけはあの人の夢を見て、幸せになることを許してほしい。
現実では叶わないなんてこと知っているから。だからせめて夢の中だけででもあの人の傍に寄り添うことを許してほしい。
そう願うことすら私には過ぎたことでしょうか。
ポケットに入れていた携帯電話が静かに震える。
ディスプレイにはいつものように非表示の無機質な文字。
「もしもし・・・」
『あ、最上さん?今電話しても平気?何してた?』
貴方のことを考えていました。そう言えたらきっと幸せだろうけれど。
「空を、星のない暗い夜空を見上げていました」
『俺も今、空を見てる。俺と君が見てる空は一緒だよね。だからきっと君は俺の傍にいて、俺は君の傍にいる。
・・・そうだったらいいな、』
彼の言葉に一筋、頬を涙が伝った。
暗い夜空を見上げて、ただ静かに一人願う。
何をか、なんてわからないけれど。もしかしたら、私の幸せを。
見えずとも星はそこに瞬いているから。 07.07.10