ただ何故かはわからないけれど心が激しく痛み音を立てて軋んだ
言葉が凶器となりうることを知ったのはいつだっただろうか。
物心ついたときには知っていたような気がする。
母の言葉が私の心を切り裂いてずたずたにしていたから。
それでも愛されたくて必死だった。
嫌われたくなくて必死だった。
けれど気付いてしまった。
私が何をしても、あの人は私を嫌うことなどないのだということに。
興味のない人間を嫌うことなどどうしたって不可能なのだから。
結局あの人にとって私はどうでもいい存在だった。
あの人に殴られたことはない。
いつも静かに私の必死な想いで伸ばした手を振り払うだけ。
ほんの僅かな動きで、あの人は私からすべてを奪った。
最小限の言葉で、あの人は私をずたずたに引き裂いた。
手を振り払われるより、あの人の言葉に私は傷ついていた。
どうしようもないほどに。
人を殺すにはナイフなんて必要ない。
ただ、言葉を発するだけで、簡単に、人は、殺せる。
言葉が何よりも鋭利な刃物になると、私は身をもって知っていた。
だから、ショーが憎かった。
そんな私を知っていたはずなのに、いとも簡単に私を傷付けたから。
振り払われたって平気。
ただ、言葉の刃を受け止めることは出来ない。
身体に何一つとして傷跡がなかったとしても、私の心には無数の切り刻まれた跡が残っているだろう。
誰にも見えない、私の奥深くに。
「・・・・さん、・・・・・・上さん、・・・・・・・最上さんっ!」
いつものように、あの人に縋った手は振り払われて、ショーからすら見捨てられて私は一人で泣いていた。
暗い暗い、奥底。
光なんて決して届かなくて、声が聞こえるはずのないその場所。
けれどそこに誰かの声が響いた。
その声は愛しさに満ち溢れていた。
その声に促されるように目を開くと、目の前には最後の恋だと誓った相手、敦賀さんがいた。
「大丈夫か?随分うなされてたようだけど・・・・」
「平気です。ちょっと嫌な夢を見ただけだから・・・。
それに、敦賀さんが傍に居てくれるから」
微笑みながら言うと、目の前で心配に曇らせていた秀麗なその顔をほっとなごませて私の頬に手を寄せた。
彼の手は大きくて、節ばっていて、私の顔をすっぽりと包み込めてしまいそう。
両手で私の頬を挟み、額同士をゆっくりと近づけた。
軽く、こんっと音がして私の額と敦賀さんの額が触れ合った。
「何かあったら一番に言って。
何処に居ても、何をしていても君の傍に行くから」
その言葉に嬉しいと思いながらも、それを信じきれない自分がいる。
彼の腕に優しく抱きしめられている時も、彼の身体が荒々しく私の上を通り過ぎていく時も、彼の言葉が狂おしいほどに私に愛を囁いている時も。
何故かはわからないけれど、私の心は激しく痛む。
それでも、これだけは本当の真実だから。
声に出すことは出来ないけれど。
私は、あなたを、愛しています。
どれほど痛くても恐くてもこの愛だけは消せない。 05.08.24