幸せ



「…敦賀さん?寝ちゃったんですか?」


二人並んで大きなソファに座っている。
私の横には、大先輩の敦賀さん。
敦賀さんに台本読みに付き合ってもらってたのだけど、次の台詞が来ないなぁと思ってたら、ふと感じた肩の重み。
視線をやったその先には、整った敦賀さんの寝顔があった。


(っていうか、よく考えたらすごいわよね。あの、敦賀蓮の寝顔を当たり前のように見てるんだから)


別に私たちは恋人同士なわけではない。
ただの事務所の先輩後輩って仲なんだけど…。

(今この絵を見られたら確実に『敦賀蓮 熱愛発覚!!』とか書かれるわよねぇ。
ま、無名も無名の私なんかとじゃ噂にはならないかもしれないけれど)



「ねぇ敦賀さん。どうやったら私は貴方に追いつけますか?」


別に恋愛感情で、ではなくて、俳優として切に思う。
この人と対等でありたいと。この人と同じものを見ていたいと。
私のような何もかもを始めたばかりで何一つとして満足に出来ない人間が思うにはおこがましいかもしれないけれど。
それでもこの目の前にいる人と同じ世界を生きていたい。


「たまに眩しくなるんです、貴方のことが。永遠に追いつけないんじゃないかって。
早く貴方と肩を並べたいのに」





ジッと敦賀さんの顔を見つめて・・・・・・・・









(わ・・・私今何した?!)


自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
慌てて、それでも敦賀さんを起こさないようにそっと敦賀さんの頭を肩から外して、敦賀さんから離れた。



さっき敦賀さんの額に当ててしまった、自分の唇に手をあてた。
そこにはまだ敦賀さんの感触が残ってるような気がして。


心臓がバクバクする。

でもなんだろう?
この胸の中にある、甘酸っぱいような想いは。
心臓が激しく動いてるのがわかるのに、何故か心に溢れるのは穏やかなもので。

ふと口から零れた。



「幸せ、かな?」