暗い路
ようやく、ようやくたどり着いた。
長かった。
ただひたすらに君だけを追い求める毎日。
何に餓えているのかも、何がしたいのかも分からないそんな状態で。
ただただ。
がむしゃらに君を愛した。
そうして、ようやく君に出逢えた。
「敦賀さん…?大丈夫…ですか…?」
遠い所から、聴こえた愛しい愛しい君の声。
今だ眠りの底を漂う意識を掻っ攫うかのような信じられないほどの引力を持ちうる君の声。
その声に導かれるように全身の神経がただまっすぐに君に向かっていく。
「ん…。キョーコちゃん?ど…うした…?」
「どうかしたのは敦賀さんの方だと思います。
突然うなされたかと思ったら、微笑んだりして…。
横で見てて恐かったんですから」
そうしてまだ心配そうに俺を見下ろす君の二対の瞳。
その美しさに息を呑み、陶然となる。
愛しい。
その感情が俺のすべてを支配し、まるで神に助けを乞う絶望の果ての信者のように手を伸ばす。
俺の唯一無二の良心に。
そっと陶器よりも、硝子よりも儚く美しい彼女の頬に手を添え顔を覗き込む。
その瞳に己の姿が映っていることに深い安堵を覚え、そして幸せを噛み締める。
彼女は自分のものだと。
永遠にではなくとも、今この場だけでも。
ごめんね。
俺はきっと君を手放せない。
いつか君が俺を嫌いになったとしても。
いつか君が俺を必要としなくなっても。
それでも俺は君を手放せない。
たとえそれで君が君の輝きを失ってしまったとしても。
たとえそれで君が君の羽根を失ってしまったとしても。
たとえそれで君が俺を憎んだとしても。
俺は君を俺の腕の中に閉じ込めてしまうだろう。
本当にごめん。
けれど俺は後悔なんてしないんだ。
ただ愛しているから。
ふ、と微笑み君は言ってくれる。
「私も貴方を手放す気はありませんよ。
たとえ貴方が他の女性を愛したとしても。
たとえ貴方が私を嫌いになったとしても。
だって貴方は私のものだから。
だって私は貴方を愛しているから」
そっと優しい口付けを落とし、囁く。
愛していると。
どこかで読んだことのある話。