ただ今だけは



「好きだよ…」


ドラマの中で彼がそう囁く。私以外の女の人に。

それが演技だとわかっていても、胸が少し痛む。
彼の視界に今、私は映っておらず、どころか違う女性が映っている。
私よりもはるかに綺麗で、大人な魅力に溢れている人が。



テレビの前でコーヒーを飲みながら放映されているドラマを観る。
たぶん日本中の女性が観ているだろうドラマを。
たくさんのドラマや映画を観ることが演技の勉強になると事務所の大先輩であり、日本を代表する俳優であり、恋人である敦賀さんに言われた。
だから少しでも時間があれば、観る様にしている。
少しでも彼に追いつきたくて。少しでも早く彼と同じ場所に立ちたくて。
そして「最上京子」を確立したくて。


「でも、演技だとわかってていても、他の女性に愛を囁いている貴方を見るのは辛い…」

決して敦賀さんを信じてないわけじゃない。
敦賀さんの気持ちを疑っているわけでもない。
ただ、どうしようもなく不安になる。

どうして彼は私を選んでくれたんだろう?
どうして彼は私の傍にいてくれるんだろう?

だって彼の周りには綺麗な女の人がたくさんいるから。
私なんて足元にも及ばない、そんな人が。


愛してるから辛い。信じてるから恐い。
こう思うのは私が弱いからなのか…。


画面の中では彼が愛する人を優しく抱きしめている。
そして唇と唇が近づいて…。






「私は本当に貴方の傍にいてもいいのですか…敦賀さん」
「君がいい。君しか欲しくない」




突然背中にいつの間にか馴染んだ温もりを感じた。

驚いて振り向こうとするけれど、強く私の体は後ろから抱きしめられていて動くことが出来なかった。

「君がいればそれでいいんだ。俺が愛してるのは君だけだよ」


震える私の体を強く抱きしめながら彼は囁く。
私の不安を消してしまう為に。



「すみません…。演技だとはわかってるんですがどうしても」
「うん。不安があるならいつでも言っていいんだよ。俺は何度だって君だけに愛を囁くから。
君はいつも自分の中に溜め込みすぎなんだ。どんな我侭でもかまわない。
それら全てを俺はきっと受け止めるから」
「…敦賀さん…」





こうやって彼はいつでも私の不安を取り除こうとしてくれる。
それでもやっぱり私は不安に思うことをやめることは出来なくて。
相手の女優さんにも嫉妬してしまう。






明日には離れていってしまうかもしれないけれど、今だけは彼は私のもの。
彼の腕の中で、私は不安を押し隠しながら幸せに微笑む。




これ以降少しずつ私の話しは暗くなっていく・・・。
ある意味記念すべき話。