月を見上げて
そっと窓から夜の空を見上げる。
都会の空には驚くほどに星が少ない。
月も淡い微かな光しか放たない。
それでもそこに確かに存在するのがわかるのは何故だろう。
目に見えないけれど、存在を感じる。
その在りようは愛にどこか似ている。
愛も同じでどれほど努力しても目に見えることはない。
けれど確かにそこにあるのだ。見えないままに私を優しく包んでいる。
そのことに気付いたのは随分前のことだった。
気付いても認めたくなくて足掻いたりもしたけれど、それは私を優しく甘く甘美に絡め取っていった。
そしてそれに抜け出せないほどに深く激しく捉まってしまった今では、どうしてそれを否定することが出来たのか不思議なくらい私を癒してくれる。
振り返ると優しく微笑むあの人。愛しさを滲ませ私の名前を呼ぶあの人。激しく私を抱きしめるあの人。甘く切なく私に愛をささやくあの人。
そのどの時だって私は幸せで嬉しくなるのだ。
貴方の想いにきちんと返せているのか不安になることもあるけれど。
それでも貴方の傍に居たいと思う気持ちの方が勝ってしまう。
いつだって私は貴方の存在を思い出すだけで幸せで幸せで。すべてを忘れてしまいそう。
「敦賀さん・・・」
今は傍に居ないあの人を想う。
けれど淋しくはない。
だって星が目に見えない空に瞬いているように。月が淡く私を包んでいるように。
貴方の愛をいつだって感じているから。
私はいつだって貴方に愛されていることを知っているから。
ロケ先の宿から夜空を見上げる。
住んでいる東京と比べると随分田舎だから、いつも見ている夜空とは全然違う。
けれどなぜだろう。
星もほとんどない、月がその存在を主張することのない淋しい漆黒の東京の空のほうが美しく感じられるのは。
ここには星の瞬きが一瞬一瞬そのすべてに感じることが出来るのに。月が鮮烈に輝いているのに。
それでも東京の空が懐かしい。
「・・・君がいないから・・・かな」
今は傍にいない愛しい恋人を想う。
誰よりも可愛くて誰よりも臆病で誰よりも強い。そんな彼女。
俺の愛の言葉も信じてくれなくて、最後まで逃げようと必死で足掻き続けた人。
俺はひたすらに愛をささやくことしか出来なくて、逃げ惑う君を追い詰めてしまったこともある。
それでも最後には俺をまっすぐに見つめてくれて恥ずかしそうにしながらもはっきりと俺に愛を教えてくれた。
俺という存在を根底から変えた唯一の存在。
誰よりも何よりも愛しい。
たとえ傍に居なくても、俺はいつだって君を想っている。
俺の愛が君を包んでいる。
そう、夜空に輝くこの月のように。
だからどうか俺が傍に居なくても笑っていて欲しい。
星が夜空に輝くように。月が鮮烈に地上を照らしているように。
俺は君をいつだって想っているから。
俺はいつだって君だけを愛しているから。
愛はいつだって君を優しく包む。