胸に突き刺さるのは君の笑顔



そんな風に全幅の信頼を寄せられても俺にはどうすることも出来ない。
君をこの腕の中に閉じ込めてしまいたくて。あの幼馴染のことすら考えられないほどに幸せに酔わせてあげたい。
この世の醜いすべてのものから君を守ってやりたくて。世界中の男の目に触れないように隠しておきたい。

君の目に入るのはこの俺だけでいい。
そう思ってしまうことは君にとっては迷惑だろうか。
いつだって俺を信じてくれて。いつだって俺を尊敬してくれる。
けれど、ね。
たまに、そんな君が、君の笑顔が胸に突き刺さってしまうんだ。


だって君は俺がどれほどの嫉妬を抱え込んでいるかを知らないから。
だって君は俺がどれほど君を征服したがっているかを知らないから。



『敦賀さんは私の一番尊敬する先輩なんです』

以前君が共演者の一人に語っていた言葉。
この言葉は俺を幸せにしたのと同時に不幸にもした。
君から尊敬される、され続ける先輩であると言うことは、この胸に渦巻く感情をけっして表にだしてはならないということだから。
君が俺に微笑むたびに俺はやるせなくなる。
どんなに俺が君を想っても、俺が想っているようには君は想ってくれない。
決してこの恋情が君には届かない。
それがとても、哀しい。




目の前で何の心配もなさそうに眠る彼女を見つめながら、触れたいという欲望を押さえつける。
もしここでこの欲望のまま君に触れてしまえば、君は俺を心の中から消してしまうだろうか。
もう二度と、俺なんかをその瞳に映してはくれないだろうか。


いっそそれでもいいから、君に想いを告げてしまいたい。
もしかしたら、という期待がないわけでもない。だって俺は決して君に嫌われているわけではないだろう?
あの幼馴染ほどに心に留め置かれてはいないだろうけれど。
琴南さんやマリアちゃんほど愛されているわけではないだろうけれど。



そっと、眠っている彼女を起こさないように気付かれないように、そっと、頬を撫でる。
いつかもっともっと君に触れることが出来る日が来ることを祈りながら。


「好きだよ、最上さん」


小さく呟いて自室のベッドルームへと退がる。
手に残る君のぬくもりを愛しく思いながら。










「私だって、貴方が好きです。敦賀さん」


明かりの落ちた部屋にぽつんと言葉が響いた。




想いを口に出来ないのは私も同じ。   08.02.24