柔らかな陽射しの中で



ドラマの仕事が決まったモー子さんと違って、まだまだラブミー部としての雑用が多い私。
それは少し悔しいことだけれどそれでもいいかと何だか穏やかな気持ち。

少し前の私なら「一日でも早く尚に復讐したい」って思うところかもしれないけれど・・・。
今はこんな風にゆっくり前に進むのもいいんじゃないかって思ってる。
ラブミー部として、いろんな人に出逢えて(もちろん中にはあからさまに私を嫌ってる人もいるけれど)なんだかお得な気分。
きっと、今までにない「私」という存在を作ってる感じがするからじゃないかな。



(んーー。本当いい天気)

暦の上ではとっくに春になっているし、もう三月だから春って言っても全然おかしくないのかもしれないけれど。
でも寒い日が続いていた最近の天気としては珍しいほどのいい天気。
吹く風はすっかり春めいていて、木や花が芽吹き始めそう。



今日は特別にやることもないらしいし、ちょうどお昼時だからと椹さんからお昼休みをもらった。
家から持ってきたお弁当を持って、事務所の上階に位置する会議室に向かう。



そこは私がよく一人で行く場所。
会議室なんだけれど滅多に使われることがなく、また、会議室には不似合いな重厚なソファが置いてある。
そのソファのすわり心地は抜群。
しかも、春は花の香りが、夏は涼しい風が、秋は風雅な紅葉が、冬は暖かな陽射しが射し込む窓辺に鎮座している。
私の密かなお気に入りとなっている。





私はいつものように、鼻唄交じりで会議室のドアを開けた。






と。






私のお気に入りのそのソファで。







先輩の敦賀さんが寝ていた。








私には十分な大きさであるそのソファも、敦賀さんには少し小さいらしく長い足がはみ出ていて。
綺麗な顔を隠すこともなく。
優しいのか、意地悪いのかよくわからない光が浮かんでいる瞳は静かに閉じられていた。





(・・・・・。敦賀さんってここでこんな風に気持ちよく寝てて大丈夫なの?)






ドアを開けたときは敦賀さんの姿に回れ右しようと思ったけれど、熟睡に近い状態で寝ている敦賀さんを見て少し安心して、起こさないように注意してそっと近づいていった。



敦賀さんの額にかかる髪を静かに掻き揚げ。
その寝顔をジッと見つめる。






(本当に綺麗な顔だなぁ)




よくよく考えると、この人は人気NO.1の俳優。
かっこいいのは当たり前なんだけど。
今初めて、私は「敦賀蓮」という芸能人に出逢った気がした。




まだ私が尚の傍に居たとき、この人は私の敵だった。
LMEに入った後も、出逢いが出逢いなだけに芸能人だという意識がなかった。

(かっこいいとか、そんな世間一般的なことを思う前に私が嫌われたし、何よりも男になんか興味ないし・・・)




でも今、改めて敦賀さんを見てこの人はこんなに綺麗だったのだと思う。

(確かに、これだと笑いかけられるだけでメロメロになるわよね)






私は敦賀さんの美しさに釘付けになり、目が離せない。


少し開いた窓から、春を感じさせる暖かな風が吹いてくる。
その風はそっと敦賀さんの髪をくすぐり、私の頬を撫ぜてゆく。

私たちの間には穏やかな時間が過ぎていく。
時が止まったような、世界に二人しかいないようなそんな錯覚を起こさせる時間。
流れるのは、暖かな陽射し。





「で、このまま待っていると俺は目覚めのキスをしてもらえるのかな?」


少し笑いを含んだ声で話しかけられ、ぼおっと敦賀さんを見つめていた私には一瞬何の話かわからなかった。







はっと気付いて、敦賀さんをしっかり見ると、口元が笑いの形をかたどっていた。



「いつまで待ってもキスをしてくれないから、自分で目覚めてしまった」
「いつから起きてたんですかっ!!」



びっくりして、恥かしくて、私は顔を真っ赤にして叫んだ。



「起きたのはついさっきだよ」

でもずいぶん長くみつめてくれてたんだね。なんてクスクス笑いながら言われてしまった。
その様子が本当に楽しそうで、なんだかこっちまで楽しくなってしまいそう。




「それにしても、まさかこんな所で最上さんに逢うとは思ってなかったな」
「それは私の台詞ですよ。
よく来るんです。お昼を食べに来たり、休憩しに」
「なら今まで逢わなかったことが不思議かもしれないな。
俺もよく、とは言わないまでも来るんだ。ここには下のような喧騒もないし、一人になれる」
「すっすみません!!私失礼しますね」



敦賀さんの言葉にはっとして、慌てて出て行こうとする。
忙しい敦賀さんがこの滅多に人が使わない会議室にいるということで気が付かなければならなかった。
どこに行っても人の目が纏わりつくであろうこの人には、休む場所などほぼないのだろう。
私などがいたら折角の彼の休息を邪魔することになる。




「待って!!」




私の手を、敦賀さんの大きな手が掴む。



「まだ昼休みなんだろう?もう少しここにいてくれないか」
「でも・・・・。私がいたら敦賀さんお休みになれないんじゃ」
「今更だよ、最上さん。今まで散々俺の寝顔を見てたくせに」




その言葉に言い返そうとした私の機先を制するように。



「もう少し傍に居て欲しい」



そう真摯に言われた。
そう言った敦賀さんの表情がなんだか少し疲れているように見えて。
私は結局そのままそこに留まることにした。



「折角なので、お昼を一緒に食べませんか。
どうせ敦賀さんのことですからまだ食べてないんでしょう?」



手に持っていたお弁当箱を持ち上げて敦賀さんに笑いかけた。
少し少ないかもしれないけれど、何も食べないよりはましだろうから。




私のその言葉に少し笑って


「ありがとう」



そう彼は呟いた。











どうしてこんなことになったのかは分からないけれど、柔らかな陽射しが射し込む静かな空間で穏やかな時間を過ごす。
たまにならこんな時間を彼と過ごすのも悪くはないなと思いながら。





こんな穏やかの時間が流れ続けることを。
                     05.03.05

















































「待って!!」



自分が口走った言葉が信じられなくて。
それでも何故か彼女には傍に居て欲しかった。



今、自分が疲れていることはわかっていた。
そして疲れている場合じゃないことも。

社さんすら傍に居られることに耐えられなくて、一人になりたくて訪れたここに彼女が来てくれた事に安堵を覚える。
そしてその感情のままに自分勝手とわかっている言葉を並べ立てた。



彼女は少し困ったように立ち尽くしていたけれど、結局俺の願いを叶えてくれる気になったらしかった。




彼女
のお手製であろうお弁当を口に運びながら、昨日の朝から何も食べていたなかったことに気付く。
腹など空いていないと思っていたが、彼女のお弁当を食べているとすべて平らげてしまいそうになっていた。
疲れているときに、誰かが作ったものなど(コンビニのお弁当も含む)食べる気になれないのが常なのに。
彼女の手料理なら何の苦もなく食べられた。





そんな自分を不思議に思いながら、彼女との間に流れる穏やかな時間を感じていた。

柔らかな陽射しに縁取られた彼女はとても可愛く見えた。