貴方の匂いに包まれて



今日から一週間のロケに行ってしまった恋人。
『いつ来てくれてもいいから』と渡された合鍵をドキドキしながら、使ってみる。
なんだかとてもとても重く感じる鍵を厚いドアの鍵穴に差し込んで回す。
たったそれだけの行為に心臓が壊れそうなほど鼓動を繰り返しているのがわかった。


もし、この鍵でドアが開かなかったら・・・?そんな馬鹿な考えすらもが頭をよぎる。
カチャっと音を立てて鍵が開いたとき、私は心から安堵のため息をついていた。

玄関に足を一歩踏み入れて、いつもはあまり意識しない敦賀さんの匂いを感じた。
涙が出るほどその匂いが愛しくて、離れているのはまだ数時間なのに、逢いたい逢いたいと恋心が暴れだす。
いつだって敦賀さんの家は綺麗に片付いていて、敦賀さんの名残なんてものはないけれど。
それでも確かにそこにある敦賀さんの気配に安心している自分を認識するたび、これほどまでに彼に囚われていることを思い知る。
もう、あんな幸せを知った後では、昔になんて戻れない。
もう、あの人を失ってなんて、生きていけない。


わずかでも離れていたくない、と。彼に愛されていたい、と私は子供のように手を伸ばす。
きっとその手を当たり前のように握ってくれるだろうから。



これから一週間も彼と離れているのが耐えられなくて、せめて寝ている時だけでも彼を感じていようと、私はクローゼットから敦賀さん愛用の真っ白なシャツを取り出す。
彼のシャツは私にとって大きすぎて、それ一枚で充分事足りる。
シャツを羽織った瞬間に香る彼の優しい匂いにまるで抱きしめられているようだった。

膝上まであるシャツだけを身につけて、彼の匂いの染み付いたベッドにもぐる。
そうすると一段と彼を身近に感じられて。
安心して眠りに落ちた。





「敦賀さん。早く、逢いたい・・・・」




匂いだけじゃなく五感すべてで貴方を感じたくて。   08.09.07