「キョーコちゃん」
不安に押しつぶされてしまいそうな弱々しい声。
この声の持ち主が芸能界に君臨している若き天才俳優敦賀蓮だなんて誰が信じるだろう。
神に縋るかのように、唯一つのお守りであるかのように、すべてを救う最強の呪文であるかのように彼は私の名前を呼び続ける。
不安なのだと。君を愛しているのだと。君しかいらないのだと。
その声を聞くたびに私はどうしようもなく哀しくて切なくて嬉しくて切なくて幸せで幸福で。
言葉もなく彼を微笑みながら抱き締める。
きっとこの感情を言葉にした途端に陳腐なありふれた意味もない塵も同然に彼への気持がなってしまうだろうから。
だから私は静かに彼を抱き締める。
彼は口癖のように『きちんと愛せているか』と尋ねるけれど。
実際は私だって『きちんとした愛』なんてものを知らない。
母に愛されてこなかった私には、取り巻くすべてを拒絶することでしか己を守ることが出来なかったから。
だからその言葉に返すものを私も持ってはいないけれど、それでも彼の不安を少しでも取り除きたくて。
微笑みながら貴方を抱き締める。
私だって貴方を失いたくないと思っているのだと。愛してるのだと。
貴方なしではいられないのだと。
抱き締めながらそっと胸中で呟くのは大切な貴方の名前。