ただ想いだけが・・・
「よお。敦賀サン。相も変わらず不機嫌顔ですね?」
にやにや笑いながら、目の前で眉間に皺を寄せている男に声を掛けてやる。
出来うる限り、神経を逆なでするように。嫌味たっぷりに。
(っつーか、よ。俺様ってこんなにお人好しだったかよ)
泣いてる幼馴染のために、大嫌いな、この世で最も嫌っているといっても過言ではない男のところに来るなんて、てめえの人の良さに吐き気がしそうだ。
それでも、あいつのためなら、俺はどんなことだってしてしまうんだろう。
「何の用だ」
いつもの爽やかな笑顔が嘘のように、殺気すらも漂わせて俺を睨みつける。
今さらこいつのこんな顔でビビったりはしねーよ。
だから俺は悪役のように口元を歪めて笑ってやった。
その俺の表情にますます憤る目の前の男。
こんな時でなければ、俺は腹を抱えて笑ってやったのに。
「へぇ。あんたは俺がなんでここに来たのかその理由がわかんねぇの?頭悪いんじゃね?」
「悪いが不破。俺はお前のように暇なわけではない。用がないのなら消えろ」
消えろ。普段の敦賀サンからなら考えられないほどの乱暴な物言いに吹き出した。
キョーコ。お前すげえよ。あの「温和」な敦賀サンからいとも簡単に冷静さを失わせるなんて。
お前にしか出来ねぇだろーよ。
吹き出しながら、胸に溢れるのはどうしようもない敗北感。
俺が永遠に失った大切なものをこれから手に入れる男への嫉み。
こんな感情を持ってるなんて目の前にいる男には、この男にだけは悟らせない。
それが俺の最後のプライドだから。
だから、俺はすべてを押し隠して不敵に笑う。
俺が理想とする『不破尚』であり続けるために。
「昨夜、あいつは俺のところに居たぜ?」
そう言ってわざとらしく敦賀サンの目の前に立ってやった。
俺のその態度に、怒りを無理やり押し殺そうとしていた敦賀サンも我慢の限界を迎えたらしい。
真正面から俺を睨みつけた。
なあ、キョーコ。
お前を想うことを、お前の幸せのために俺が行動することをどうか許してほしい。
お前にはいつだって幸せでいてほしいから。
季節外れのヴァレンタイン話。の続き 10.06.08