ただ想いだけが・・・
「うお〜〜い。飲み過ぎじゃねーのか、お前」
目の前に缶チューハイやら缶ビールやらを所狭しと並べて、ぐびぐび飲み干す幼馴染を最初は呆れた目で見遣っていたが、
あまりのハイペースっぷりに心配になってしまった。
うっかり急性アルコール中毒にでもなっちまうんじゃないだろうか。
だが、せっかくの俺の心配もどこ吹く風。
聞く耳も持たず、飲み続ける幼馴染。
重い、重い溜息を一つ吐き出すと、キョーコが持ってる缶チューハイを取り上げた。
「お前、本気でいい加減にしとけ。
女優が顔浮腫ませてカメラの前に立つ気かよ」
「うっさいわね!あんたに女優の何が分かるってのよ。
これが飲まずにいられますかっ!!」
だから!俺は!何度だって何があったのか聞いたじゃねーか。
俺の質問疑問すべてを黙殺したのはてめーだろーが。
もう一回軽く溜息を吐くと改めてキョーコに向き直った。
と、さっきまで黙々とアルコールを体に流し込んでいた(あれは、決して「飲む」なんてレヴェルじゃなかった)幼馴染は、
泣きそうに顔を歪めて壁に張ってある俺様のポスターを睨みつけていた。
「お、おい。お前なんでそんな泣きそうなんだよ。何があった。
ま、まさか、誰かに苛められてるとか、ないよな?おい、なんか答えろ。俺がどうにかしてやるからっ!!」
「・・・・」
「あ?聞こえねーよ。おら、もっとはっきり言え」
「敦賀さんが・・・。
私、ずっと、ずっと今年のヴァレンタインに告白しようって思って。そ、そりゃうまくいくなんて欠片だって期待してないけど、せめて好きだって想いくらいは伝えたい
なって思ってて。なのに、なのに!
毎年大量に送ってくるファンからのチョコも、気持ちは嬉しいけど現物はちょっとね・・・って。
なんとも想ってない人からチョコを貰ってもそんなに喜べない。もらうチョコは心から愛してる人からの一つで十分、って」
「・・・。で?なんでお前は泣いてんだ?」
それはどう考えても、お前からのチョコがあればそれでいいって意思表示だろーよ。
泣いて喜ぶならともかく、どうして、今、こいつがこんなに辛そうに泣いてんのか、俺には理解できん。
「なんで?今、あんたなんでって言った?」
俺の言葉を聞いて勢いよく顔を上げたキョーコは、鬼のような形相で俺に詰め寄ってきた。
「どうして、あんたってそう、デリカシーの欠片もないのよ!わかるでしょ。
私は今日、好きな人に告白するまでもなく振られたのよ!
せめて、想いを伝えることぐらい出来てればまだ、諦めようもあったのに・・・」
そういって漫画のようにうわ〜〜んと泣いて突っ伏すキョーコ。
俺は呆れ果てて何も言えなくなってしまった。
そうこうしているうちに泣き疲れたのか、ただの飲み過ぎか、キョーコは穏やかな寝息を立て始めた。
「ったくよ。しょうがねー奴だな」
寝室から毛布を引きずってきて、起こさないようにそっと掛けてやる。
とっくに俺らが幼馴染だってことは世間にばれてるから、今さら俺の家からこいつが出てきたところでスクープにも話題にもなりゃしねぇが。
それでも目の前で惚れてる女が無防備に寝てたら、触れたくもなる。
絶対に触れはしないけれど。
すでに、こいつの目には敦賀蓮しか映っていないことを知っているから。
俺は幼馴染として、こいつの理解者として支えていくことを決めたから。
だから決してそういった意味で触れはしないけれど。
それでも今だけはこいつを独り占めしたっていいだろう?
俺じゃない違う男の腕の中で微笑むのだろう未来を、俺だけが確信しているのだから。
続くかもしれない・・・。 10.02.12