最後に勝つのは誰?
気まぐれロックの収録後、鼻唄交じりにスタジオの廊下を歩いていた。
今日は少しプロデューサーさんが優しかった。
坊初日に鬼のように怒らせてしまって以来、挨拶をしても返事が返ってこないぐらいに嫌われてしまっていたのに。
何故かはわからないけれど、今日は挨拶に返事が返ってきたのだ。
ただ、それだけだったけれど(挨拶以外は完全に無視された)それでもとても嬉しかった。
いつになくウキウキした気分でスタジオの出口まで急ぐ。
今日は他にタレントとしての仕事(といっても、バラエティ番組なんかのサクラがほとんどだけれど)もないから事務所に戻ってラブミー部として仕事を探すつもり。
今にもスキップしそうになるのがわかるくらい私は浮かれている。
(あ〜〜モー子さんにこの喜びを伝えたいわっ!!
きっとモー子さんは呆れちゃうと思うけれど、この喜びを分かち合いたいもの)
だって親友だも〜〜ん。と音楽に乗せて口ずさむ。
「よう、キョーコ」
後方から何かいや〜な声が聞こえてきた。
怨キョが反応している所をみるときっと馬鹿ショーだわ。
あいつは無視するに限るわね。
コンマ一秒の一瞬にそう判断して何事もなかったかのように歩き出した。
嫌な空耳を追い出す為にもう一度最初から今日の嬉しかった出来事を反芻しなおす。
ふんふんふ〜〜ん。と今度は少し大きめに鼻唄を歌って。
少し、早足気味で。
「おいっ。テメー何無視してやがんだよっ!!」
いきなり後ろからぐいっと腕をつかまれ無理やり振り向かされた。
あまりに強い力だったから腕に跡が残ってしまったかもしれない。
驚きで一瞬呆けてしまったけれどすぐに気を取り直し、ぎっと目の前の憎い顔を睨みつける。
(この顔を一時でもかっこいいとか思ってた私がいたなんて!!
コーンとの大切な思い出がないならすべてまとめて抹消してやりたいわっ)
「なっなんだよ」
「何か用があったんでしょ?ショー。早く言ってくれない?」
「べっ別にお前に急ぐ用事があるわけじゃないんだからいいだろっ。
どーせお前なんか全然売れてないんだからよっ」
「なんですって!?あんたこそっ・・・・・」
(駄目駄目。こいつの挑発になんて乗ってもいいことなんてないのよ。
ここは一つ大人の余裕でかわしてやりましょ)
「そう、私まだ売れてないのよ。だからね今からいろんなところに売り込みに行かなきゃ行けないの。
芸能界のトップに君臨してると勘違いしてる不破君とねお話してる時間なんてないのよ。
じゃ、さようなら」
私のにっこり似非スマイル(某大魔王直伝)を目の当たりにして少し怯えたようだったけれど、ここはさすがと言うところかしら。
すぐにいつもの調子を取り戻して先を続ける。
「勘違いしてるんじゃねぇ!!俺がNO.1だ!!んなことは当たり前だろーがっ。
・・・おい。今から暇なんだろ?この俺様が飯に連れてってやるよ、感謝しろ」
呆れて言葉がないってきっとこういうときに使うのよね。
どうして私がショーに誘われて喜んだり、感謝したりしなきゃいけないのよ。
そもそも行く気なんかないわよ。
「ばっかじゃないの?どうして私があんたに誘われて、嬉しい、って連いていかなきゃいけないの。
ほんっと、救いようのないほどの馬鹿ね、あんたって」
「んだとっ?!嬉しくないのかよっ」
「嬉しいわけないでしょ、迷惑なだけに決まってるわ」
「そうそう。それに最上さんはこれから俺とデートの約束があるからね」
突然後ろから響いた声にショーは憎しみを込めて、私は恐怖を抱いて振り向いた。
そこには案の定、私の中の逢いたくない人NO.1の座をショーと激しく争っている事務所の大先輩敦賀さんがいた。
彼は不動の芸能人一いい男なだけあって均衡の取れた抜群のプロポーションに切れ長の涼しげな目元。
柔和な笑顔を絶やさない穏やかな好青年。を演じている腹黒大魔王。
私は何度も何度も泣きたくなるほど彼の本当に怒った時の顔を見ているから、出来る限り近づきたくないと思っている。
なのに最近、何故かいろんなところで偶然に出逢ってしまう。
逢うだけならまだいい。
挨拶して終わりに出来るから。
そもそも普通事務所に入りたてのほとんど芸能活動をしていない新人も新人(ラブミー部に入ってるだけで特殊で異質)である私と日本一の俳優と名高い敦賀さんの接点があるはずがない。
にも拘らず、逢えば必ず何かと声を掛けてくる。
やれお昼ごはんをいっしょにどうだ、だのやれ今度デートしようだの。
などなど数え上げれば限がないほどの嫌がらせの数々。
それだけでも辟易してるのに。
「何急に入ってきてぬかしてやがんだっ!!キョーコは今から俺と飯食いに行くんだっ」
「なれなれしくお前ごときが彼女の名前を呼ぶな。
お前こそわかってないらしいな。彼女がお前とどこかに行くはずないだろう?
そんなこともわからない、馬鹿は可哀想だな」
私そっちのけで言い争う2人。
そんな2人に挟まれて、私はどうすることも出来ずただおろおろとしていた。
顔をあわせるといつもこうなってしまう2人。
それなら顔を合わせなければいいのにと思うのだけれど、2人とも何故か、故意に声を掛け合ってるようにしか思えない。
では、もしかして・・・・この2人は本当は仲がいいんだろうか。
喧嘩するのは仲がいい証拠と言うけれど・・・。
大きな声で言い争うものだから、何事かとギャラリーが集まってくる。
今をときめく2人の有名人の諍いなど、格好のスキャンダルのネタになる。
それだけならまだしも事実は全然違ったとしても、傍から見ていると一人の女性(この場合は迷惑なことに私)を取り合っているようにしか見えない。
さすがにそれはまずいだろう。
慌てて止めに入ろうとするけれど、ヒートアップしている2人には私の声などまったく聞こえていないみたい。
いまだ嫌味の応酬(ショーは既に怒鳴る、の域に達しているけれど)は続いている。
その狭間に立って遠くを虚ろに見つめる。
(どうして、こういうときに限って、この人たちのマネージャーがいないのよ。
いえ、いないわけじゃなくて、どこかでみてるのかも知れないわ)
そう思いつつ回りを見渡してみるけれどそれらしい影はいない。
敦賀さんもショーも止まりそうにないから、理不尽とわかっていつつも受け持ちタレントから目を離した2人のマネージャーを心の中で詰る。
さすがに面と向かっては言えないもの。
さらに言い合いは激しさを増して(そもそもどうして私がどちらかと出掛けなきゃいけないのか)私が諦めの溜息を吐こうとしたその瞬間。
後ろから声が聞こえた。
「キョーコ?あんた何してるのよこんな所で」
聞き間違えるはずのない、大好きな親友の声。
「モー子さん!?キャー久しぶりーー。モー子さんこそどうしたの?」
「久しぶりって、あんた。昨日も逢ったわよ・・・。
私はドラマの撮影ね。って言ってもワンシーンしかない役だけど」
そう言って私の両隣に立っている二人に目をやった。
その視線には同情やら哀れみやら苛立ちやらが含まれているような気がする。
「なんか大変みたいね。
ねぇ、キョーコ?これから暇ならちょっと遅いけどランチでもしない?
その後、ショッピングに行ってもいいし」
予定がないなら、だけど。
そのモー子さんの言葉に一も二もなく頷く。
モー子さんからの誘いを断るはずないじゃない。
「もちろん、暇っ!暇っ!!行きたい!!」
勢い込んでそう言う私に優しく微笑んで、じゃ行きましょと私の腕を引く。
その際、芸能界においての先輩である敦賀さんとショーへの挨拶も忘れない。
「じゃあ、そういうことで。キョーコ連れて行きますね。
お2人はそのままじゃれあってて下さい」
「ちょっ、琴南さん!?」
「おいっ!何勝手に決めてんだよ」
男2人からの反発をくらってもモー子さんは素知らぬふりで歩き続ける。
私はモー子さんから誘われたことが嬉しくて、もうその頃には既に敦賀さんとショーの存在は頭の中から消え去っていた。
「キョーコ、あんた何食べたい?」
「うーん。何がいいかなぁ。ハンバーグとか好きだけど」
「じゃ、ハンバーグにしましょ。ランチの後サンダル見たいんだけどいい?」
「うんもちろんっ!!」
男2人が後ろで何か言っているのをBGMに2人でこれからの予定を組み立てる。
私も、モー子さんも、この後特に仕事がないからゆっくりとお買い物できそう。
大好きなモー子さんとのデートに浮き足立って。
(今日はいい事尽くしだぁ)
すでに、敦賀さんとショーの存在なんて私の中からは抹消されていた。
だってモー子さんが一番だもん!!
今更ながらのUP。
弁解の余地もありません。
777番ナオ様リク。蓮→キョ←尚で・・・。でも勝者はモー子さん
とのことでしたが・・・全然なってない・・・。
ご報告に上がるのも申し訳なく、こっそりと置いときます。
ちなみに、こちらの作品に関してはナオ様のみフリーです。
05.09.06